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冒険する子供たち Wing of Pink
著者:水島ゆいり
キャラクター原案:水島ゆいり 葉月真愛海


「ぐぁ!!」
 男の左手の甲に斬撃が走った。
「あぁっ!ごめんなさい!」
「謝ってないで戦え!前を見ろ!」
「うっうん」
 仲間に叱咤しったされるとウィンクは向き直った。
 視線の先には二メートル近い身長の紅色に染まった甲冑かっちゅう姿の魔物がおり、もう一人の仲間が果敢かかんに左右の剣で攻め立て注意を引きつけていた。
 彼女も援護するべく距離を詰める。
「イグニス!どうすればいい!?」
 二つの剣で敵の反撃をやり過ごしているイグニスは少し余裕がなさそうだ。なにしろ敵はあの巨体に加えて自身より長い二メートル以上の薙刀なぎなたを持っている。ウィンクは判断に迷う。このまま接近して盾で防御しつつ注意を引きつけるべきか。
 どうしよう―
「少しの間引きつけてやってくれ。後はイグニスがケリをつけてくれるはずだ」
 どうするか困っていると後ろから支持が飛んできた。
「ロキ!大丈夫なの!?」
「ああ心配いらん。そんなことより早く」
「わかったわ!」
 彼の怪我もどうやら大丈夫みたい。応急手当をして後でちゃんと治療をすれば傷跡も残らないだろう。
 安心して長方形型の大きな盾を持ち直す。
 呪文を唱えると手に持つ盾がかすかに光り出した。
 ウィンクは攻撃が不得意だ。なら何ができるのか。
 この盾で仲間を守ることだ。
(いくわよ!)
 魔法で強化した盾を突き出し武器を引きながら敵の後姿に突進した。右手に持った鈍器どんきで連続して殴りつける。甲冑に致命的ちめいてきなダメージは見えない。が、注意をこちらに切り替えるのには十分だ。魔物がその不気味な双眼そうがんをウィンクに向けた。小うるさい蚊から片付けようとでも思考しているのか。
 あの甲冑の中に肉体的なものはないから、兜の眼越しに映るぼんやりとした光はきっと魂とかに違いない。
 気を引き締めていないと恐怖におくして腰が抜けてしまいそうだ。
 巨体から繰り出された薙刀の旋風せんぷうに大きく後退した。盾を持ち直しすぐさま近づき直す。
 距離をとって攻撃の手を休めさせてはいけない。それではイグニスの動きに気付かれてしまう。
「ぐらついてるぞ!しっかり構えろ!」
 ロキの指示が飛んでくる。
 そうは言ったって!相手の一撃が重いんだもの!
「っ!」
 手がしびれてきた。握力あくりょくが無くなってきて盾をしっかりと構えられない。
 怯む彼女に向かって半円を描いて勢いよく振り回された。
 駄目!踏ん張りがきかなくて吹き飛ばされてしまう!!
 襲いくる恐怖に目をつむった瞬間しゅんかん
 薙刀が上にはじかれた。
 ウィンクと魔物の間にイグニスが割り込んだのだ。
 彼女の前に立ち魔物と対峙たいじする。
「ウィンさんもういい。下がって」
「はいっ」
 いつ見ても凄い。
 両手に持つ剣は激しく燃えていてあまりの熱量に剣の周囲がぼやけて見える。
「おらああ!!」
 飛び掛るようにり剣を交差させバツの字に斬る。薙刀で受け止めきれずによろめいたところをすかさず二つの剣が攻め立てる。
 剣を振るう度にが舞い、ついに薙刀は分断された。
 もちろんその隙を彼は見逃さなかった。
 より一層力を込めた火炎は大きくほとばしり線を描き兜から胸の位置まで寸断する。更に力を隆起りゅうきさせる。食い込む剣の勢いは止まらない。
「らああああああっ!!!」
 炎が一直線に駆け抜けた。
 二つに裂かれた甲冑がそのとてつもない重量を知らしめる音を立て崩れ落ちてゆく。
「フウゥゥー…。危なかったな。大丈夫か二人とも」
「ああ」
 ロキは怪我をした手を軽く振ってみせた。
「…うん、大丈夫」
 誰も大怪我をしなくてウィンクは安堵した。凄い量の汗を流しているがイグニスも大丈夫そうだ。
 緊張から開放されふぅと一息つくとその場にへたり込んでしまった。 


「ロキ、あの動きはないだろ?」
「いやぁすまんすまん」
 先程の戦いを振り返り笑い合っていた。
 一頻りひとしきりの狩りを終え、”幻影楼閣げんえいろうかく”と呼ばれる狩場を後にした三人は和桜ていとの酒場で休んでいた。
 女性も羨むような長いブロンドの髪を癖毛くせげでボサボサにし黒で統一されたゴシックの服に身を包むのはイグニスだ。
 そしてもう一人、短めの濃い緑色の髪にパンクな服装がロキだ。
 ちなみにウィンクの髪色は純粋なピンク色で、こうして三人でいると時々三色団子に思えてしまうことがある。
「大丈夫だったか?」
 ウィンクの横にロキがどかっと座った。イグニスは今日の収穫の勘定かんじょうをしている。
 皆同じギルドに所属しょぞくしていてロキはそのマスターだ。ギルドのメンバー達にはそのまんまマスターと呼ばれている。
 ウィンクも皆といる時はそう呼んでいる。
「大丈夫だよマスター」
「そうか。盾は大丈夫か?」
「ちょっと痛んでるかも。またどこかで稼がなきゃね」
「そうだなー、明日はもう少し楽な狩場に行くか」


 しばらくして二人と別れるとアテもなく歩いていた。
 少々思うところがある。
 私はここが好き。
 いつも桜の木が盛大せいだいに咲いていて不思議な空間だ。一人で歩いてる時には、まるで人のいない神々かみがみがひっそりと住んでいるような、そんな世界に迷いこんでしまったような気にさせる。人間なんて遠くばないようなそんな気持ちに。
 和桜。
 それは異世界いせかいに繋がっていると言われる幻影楼閣を中心に後から人間がきずき上げた街。

***

 今日も失敗してしまった。
 彼らは気にするなとは言うけれども、ウィンクは自分の役割をこなせないことが情けなくてしょうがなかった。
 せっかくのお団子ものどを通らずあまり美味しくなかった。
 気のない足取りで帰路きろへ向かう途中だった。
「う?」
 視界しかいはしで何かが光った。道の隅を見ると露店ろてんがでていた。
 誘われるがまま近づいていく。
 無骨ぶこつに並べられた品々の中にそれはあった。
 綺麗な石。透き通ったピンク色で何かの宝石みたい。
「あの、これ見てもいいですか?」
 石を指差して店主に言った。
「もちろんですよ。そのために店を開いたのですから」
 ウィンクは石をつまみあげた。透き通っていて石を通してピンク色に染められた世界が見える。
「綺麗〜お部屋に飾りたいな」
 夢中で眺めていると店主は言った。
「でわそれは貴方に差し上げましょう」
「えっ?おいくらですか?」
「御代はいりません。私は必要な物を必要な人へと運ぶ、それが仕事ですから。どうぞ貰ってやってください。その子も喜びます」
「その子も…?」
 意味深いみしんな言葉に石をジッと見つめたが、ただの綺麗な石だ。
「あ、あの」
 しかしウィンクが見ていたものは、まるで幻だったかのように露店と店主の姿は消え、ただ人気のない路地が残っていた。
 しかしその手には確かにピンク色の綺麗な石が握られていた。

「ねぇうしめって。私って魔物と戦うの向いてないよね」
 気だるそうにほおを机に押し付け片手でノートにうしめっての絵を描く。
 ”うしめって”とはウィンクがまだデザイナーを目指していた頃考えたキャラクターで今も時々趣味しゅみで描いている。
「明日もみんなで狩りするんだって。私また失敗なんてしないよね…」
 その日は外で夕食も済ませてきたので、起きている理由もなかった。
 すぐにウィンクは眠りについた。

***

「ウィンク!!遅いぞ!しっかり援護えんごしろ」
「は、はい!!!」
 戦場に走る緊張きんちょう怒声どせいが心に重くし掛かる。
 その日の狩りも大怪我こそ出さなかったもののやはり怒られてしまった。
「疲れたぁー…」
 寄り道する気力もなく弱々よわよわしい足取りで家に帰った。
 家に着くとベッドまで辿り着く元気もなく手短にあった机に張り付くように倒れこんだ。
 そこに置いてあったピンク色の石を摘む。昨日よくわからない人から貰った綺麗な石。少しだけいやされる。
 しかしすぐに失敗の波に押し負けて考えることをやめていた。
(明日は皆でお出かけかー)
 どんな顔して行けばいいのかなぁ、そんな事を思い眠りについた。

***

「こらっ起きなしゃい!」
 イタっ。いや痛くはないんだけど……ペチッと何かで叩かれた?何で?
 というか誰に…?
 まさか虫……?ぞわぞわっと体中に悪寒おかんが走った。
 ウィンクは思い切り起き上がろうとした。
「っーー!!いったーーーーい!!!!!!」
 昨日から机の上で寝てたらしく、立ち上がろうとして思い切りひざをぶつけた。
「なにやってんのよ」
 声の主は机の上にいた。虫ではない。それどころか牛ではないか。
 明らかにあどけない童顔どうがん薄紫うすむらさきのロングの髪、その上に牛の顔のかぶり物が乗っている。そして左手には水玉模様の赤いリボンがかけられたチョコレート型の盾を、右手には赤いおそらくイチゴ味のペロペロキャンディーを持っている。
 私はこの子を知っている―
「うしめって…?」
「そうよ」
 片手にギリギリ乗りそうなくらいの体を反らしてえっへんとポーズをとっている。
「…本当にうしめって?」
「信じないの?」
 ウィンクは腰をかがめてうしめってを正面からジッと見つめる。他にも角度を変えて見てみる。
 どこからどうみても牛だ。
 これはもう…、
「……信じる!わあ可愛い!?」
「ちょちょっとお」
 ウィンクに抱きすくめられたうしめっては恥ずかしそうにもがく。
「そんなにスリスリしないのお」
「あっごめんね」
 名残惜しそうにうしめってを机に下ろすと頭を人差し指でちょんと突いた。
「そうだ!ねっお出かけしよう」

***

 集合場所に指定された店でウィンクはうしめってと話しながら時間を潰していた。たまらず時間よりだいぶ早く来てしまったのだ。
「うふふっ。あっ来た!すこし隠れててね」
「あいっ」
 うしめっては小さく返事をした。
「二人とも遅いー」
 入り口に立つロキとイグニスに手を振り二人がウィンクの姿を見つける。
「早いなまだ約束の時間じゃないぞ」
「あのねっ」
 膝の上に乗せていた箱を持ち上げる。
「二人に見てもらいたいものがあるの」
 テーブルの中央に水玉模様もようの箱を置いた。
 イグニスが指差した。
「なんだこれ?」
「じゃっじゃーん!」
 上蓋を取り小箱を開ける。
「ぷはーっ」
 中から出てきた謎の生物に男二人が固まった。
 さらに箱に向けていた指にその生物がよじ登り彼は絶句ぜっくする。
「――――――――――!?」
 石のように固まってしまった。もうしばらく動けそうにない。
「おい!?これどこで拾ってきた!?」
「拾ってないよう」
「じゃあなんだこれは!?!?」
「これじゃないってうしめって」
「うしめってえ!?」
 今度はロキが素っ頓狂すっとんきょうな声をあげる。
 眼前にいる謎の生物はその小さな体躯たいくで言葉を発し動いている。あまりにも奇怪きかい奇妙きみょうだ。
 ほら乗って、そう言ってウィンクが両手で作った皿を差し伸べるとうしめってはそれに飛び移った。
「私の友達よ」
 両手の皿を二人の前に差し出し、ウィンクは笑顔でそう言った。
 その様子を見てロキとイグニスはぷっと噴出ふきだし、やがて笑みがこぼれる。
「やっと笑ったなウィンさん」
「だな。よし、買い物行くぞ。ウィンク、うしめって」
 ロキが手を差し伸べる。
「うん!」
 彼女の明るく笑みに溢れる一日が始まるのだった。


end



まだまだ”あとがき”にはなれない言い訳や反省

いかがだったでしょうか!
各場面の殆どは以前から書けていたのですが、それらを繋げる、次の場面へ移る描写などが書けず長いこと放置していました。
短編はとても難しいですね。長編も出来上がってないのでどちらも難しいのでしょうが、短編の方が色々な制約がかかる分まだまだ思うような出来栄えにならないです。

作中に出てきた街などの設定は、長編オリジナルで書いている”冒険する子供たち”から持ってきたものです。
悪い意味での設定魔を抑えきれず、その設定をこの短編でも出してしまったのですが、やはり語る程この短さには合ってないでしょうか…。ううーん。
構成も描写より会話をもっと多くしたいと考えているのですが、これらを総合すると1から書き直さなきゃいけないだろうとひとたびの完成とします。
いずれ余裕があればリメイクを、でなければ続編を書きたいと思っています。
ここまで読んでくださった方有難うございました。それでは。